2013-11-17

終身雇用を捨てるのは企業か?個人か?

「よく、ひとつの会社で長く働けるよねー」
先日、独立して仕事をしている人たちばかりの集まりの中で、何気なくそんな発言が出た。
…わたし、ひとつの会社で長く働いてるなあ。
その場では何も言えなかったけど、「いやなことを我慢して働き続けるのは無理だよねー」みたいな話題の中で出たその言葉は胸に突き刺さって、しばしばわたしにぼーっと考える時間を作らせた。

そんな中、先日、友人に紹介されたこの記事がおもしろかった。

リンクトイン創業者が語る新たな雇用形態 終身雇用を捨てよう(ハーバードビジネスレビュー)

ひと記事800円か…と少し躊躇しながらも、その友人のおすすめは信頼度抜群だし、冒頭の言葉で「ひとつの会社で長く働くこと」について考えていたし、1冊まるまる2000円で買うよりいいかと思い購入。ちなみに英語でもあんまり値段が変わらなかったので日本語で買った。

 
雑誌だったら、こちらの号に載っている。


なかなか興味深かったので、この記事の中で挙げられている、LinkedInの創業者の方が出した本もKindleで読んでみた。

 
スタートアップ!(リード・ホフマン、ベン・カスノーカ)

どちらも言っていることは「昔は終身雇用が当たり前だったけど、今はグローバリゼーションと情報化のせいで終身雇用とか絶対無理だよね。さあどうする?」ということである。
わたしも含めて、周囲のいわゆる日本の大きな組織、企業で働いている人たちの中には、「この先本当に終身雇用は保証されるのだろうか?自分はどうなるんだろう?」という不安を感じている人が一定数いる気がする。まったく考えていない人もいるが。
前述のグローバリゼーションと情報化のほかにも、日本の場合は年功序列社会の中で、人口・就労者ピラミッドがいびつになっている。上の世代がいっぱいいるので、ちょっとやそっとでは出世できない。お給料は上がらないし、今後利益がうなぎ上りするとも思えない。希望する人の65歳までの雇用が義務化されたし、税金や保険料率は毎年上がって手取りは減るし、年金も不安だし、ますます大企業で働く若者の未来は閉塞感に満ちている。

こういう不安や閉塞感に直面したわたしの周りの大企業で働く人たちは、こんな行動に出ている。括弧内はだいたいの割合である。計算したわけではないけど、雰囲気的にはこんな感じ。

  • 転職とか退職っていう選択肢はない。不安を抱えながら与えられた環境で引き続きがんばる(60%)
  • 未来はわからないけど、転職とか退職の予定はなく、不満を仲間と共有しつつ、趣味や自分の生活に精を出すことに喜びを見いだす(30%)
  • 転職(5%)
  • 起業・独立(5%)

上ふたつは自分へのあきらめだったり、「どうしようどうしよう」と逡巡している状態である。
それに引き換え、これまたわたしの周りの例だけど、新卒時点でスタートアップ的なところで働いていた人たちは、転職、起業をばんばんしている。「やばいけど、今やめるのはなあ…とりあえずここにいよう」というようなためらいを感じさせない。
なぜ大企業をやめるのに躊躇するのか?というのは、以下の3つに集約すると思う。

  1. お給料がそこそこいい
  2. 起業・独立のネタがない
  3. 環境を変えることが怖い

まず、ひとつめにはお給料の問題がある。日本の大企業をやめて他社へ転職したり、企業したりしても、お給料が上がることの方が珍しいし、福利厚生も含めて考えたら損をすることの方が多そうなのである。なので、不満はあるけど、とりあえずこのままでいようか…という感じになる。
それに引き換え、スタートアップで働いていた人たちは、そもそもお給料にそこまで頓着していなかったりする。

ふたつめの問題は、起業・独立するにも、「ネタ」がない、ということだ。大企業はその会社のシステムとかルールとかにはまった形の仕事をさせられるので、自分が何をできるのかっていうことに気づけない例も多いし、MS Officeくらいしか世の中で通用するスキルがありません!みたいなことになりかねない。10年働いてこれって、本当に笑えない。…だけどわたしも多分そうである。
翻って、スタートアップで働いていた人やフリーランスの人たちは本当に「手に職」を持っているなあ、と見ていて感じる。わたしの周りならプログラミングだったり、IT系の分野に関するシステム構築、コンサルティングというスキルを持っていて、転職したり起業したりしている人が多いのだ。

最後に、わたしも含めて大企業で働いている人の大半は、積極的に環境を変えようとしない。基本的に収入が途絶えるという心配をしなくていいと思っているので、長期的な計画を立てがちである。例えば小さなものでは半年以上先の年末やゴールデンウィークの旅行とか、大きなものでは35年の住宅ローンとかで、こんなものを抱えていたら腰を据えて転職活動とか、どのくらい収入が途絶えるかわからない状況で起業なんてやろうと思わないだろう。
スタートアップで働いている人たちは、「手に職」があるし、自分が働いていたスタートアップがどうやって顧客を集めたり、サービスを売ったりしているか知っている。だから、もちろん決意みたいなものはあるだろうけど、「なんとかなるでしょ」という気持ちで自分の環境を変えて、新しい仕事に挑戦している。ちなみに35年ローンを抱えている人は見たことがない。

大企業で働いている人の大半は、会社が倒れたときに路頭に迷うだろう。運がよければ関連企業に雇ってもらえるかもしれないけど、その企業もいつまでもつかわからない。
自分も例外ではないので、書いていて暗い気持ちになってきた。前述の『スタートアップ!』では自分のキャリアをスタートアップ企業のように発展させていくことはどうかと述べて、「スタートアップ的な生き方に必要なもの」として以下を提案している。これが大企業で働く人こそちゃんと考えるべきだなと考えさせるものなのである。
  • 自分の資産、大志、市場環境の3つを組み合わせて競争上の強みを身につける
  • ABZプラニングの手法を使って、自分の強みを活かすための最優先プラン(プランA)をつくり、まわりからの意見や教訓をもとに何度も改良しながら練り上げていく
  • 実を伴った末永い人間関係を培い、それを土台にして協力なプロフェッショナル・ネットワークを築く
  • 人脈を大切にし、機転を利かせ、活動を絶やさずにいることによって、機会を見つけたり、生み出したりする
  • 仕事上の機会を追求しながら、正確に状況を見極め、賢くリスクをとる
  • よりよい機会を探し、キャリアについてこれまで以上に優れた判断を下すために、情報網から知恵を引き出す
こうして書いてみるとちょっと引いちゃうような強いメッセージだけど、この本はひとつひとつが興味深いさまざまな起業家のエピソードに触れているところが単純に読み物として面白い。
また、「人脈とか聞くと、気持ち悪いよねー。でも一生懸命名刺を配ることが人脈作りじゃないし」というような心理的ハードルを取り除く言葉のあと、具体的にどういうことをするといいよ、という提案があるのでやってみようという気持ちになれる。とりあえずわたしは周囲の起業した友達にいろいろ話を聞いてみようと思ったのであった。

以上、長々と書いたけど、冒頭の「よく、ひとつの会社で長く働けるよねー」という問いに対して、実際に働いている立場として答えるとすると、
「自分が我慢強いとか思ったことはないし、むしろ多分組織とかあまり向いていない。もちろんこの状態がいつまで続くのだろうという不安はあるけれど、それでもこの仕事を続けているのはひとえに、独立して食べられる程度の収入を得られる仕事をする自信がないから」
なのである。
ものすごく消極的な理由である。

需要と供給のバランスで、こういう自信のない人があふれる大企業は、いくらでもお給料を下げられそうだ。お給料以外にも、待遇とか、仕事内容とか、働く立場としては我慢することも増えそうだ。そうだとしても、終身雇用が崩れて収入が途絶える心配も、本当にしなくていいのだろうか?という疑問が沸く。
「どんなに我慢しても、生きていけるくらいのお給料がもらえる可能性が高い仕事」か、「一度しかない人生だから、仕事であろうとも極度にやりたくないことはやらない」のか、今後も考え続けることになるだろう。
とりあえず、今の状況でいろんなことに挑戦しておくことが大切なのかなあと感じている。あと、35年ローンは絶対組まないでおこうと心に誓った。

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