2015-02-28

意を決してアメリカで病院へ行った話

わたしは身体がものすごく丈夫である。ゆえに日本にいたときも、年1回の定期検診以外で病院にかかることはほとんどなかった。医者嫌いというわけではないけど、ちょっと体調がすぐれないときでも睡眠をとればすぐに治るので、病院へ行く必要がない。

しかーし。最近たまに、わき腹近辺が急に痛くなることがあった。そんなに頻繁ではないのだが、毎回同じところが痛む。
「厄年くらいは本当に身体壊すから。気をつけるんだよ」
という友人の言葉が脳裏をよぎる…
うぐぐ、たしかにそうなのだ。わたしの周りを見渡しても、30歳を過ぎてから特に婦人科系の病気が見つかった友達がやたら多い。健康を過信してはいけない年齢なのかもしれない。
なんせ健康なので、医療システムはもちろん、臓器や医療の英語もわからないのにアメリカで病院かあ…と思いつつも、まだまだ人生に未練がありまくりなのにある日ぽっくり、みたいなことになるのもいやだったので、重い腰をあげることにした。はい、ここまで長い前置き。おつきあいありがとうございます。前置きも長いですが、中身はもっと長いです。

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ステップ1. 契約している保険を確認しよう!
まずは病院を探さねば…と思い、Zocdocを試してみることにした。


Zocdocはニューヨーク発のスタートアップ企業。複雑怪奇なアメリカの医療界において、オンラインでお医者さんを探せて予約できるというすばらしいウェブサービスである。

よーし、さっそく検索!…ううう、「○○科」っていう英単語すらよくわからない。そもそも外科ってなんで「外」科なの?とりあえず、辞書をひきまくる。今回は症状がなんだかよくわからないので、日本で言うところの内科(って言えばいいんだろうか?)、最初にかかるべきらしい「Primary Care Doctor」にしてみた。

しかしここで手が止まった。「Who participates in」??


うわ、保険である。よくわからないまま契約した保険のカードにはAetnaって書いてあるから…


………
自分がAetnaに入ってるかな?と思っても、Aetnaのどのプランかっていうのがわからない選択肢の量。あてずっぽうも無理。さすが複雑怪奇、魑魅魍魎がはびこるアメリカの医療システム。(※個人のイメージです)

ということで、自分が入っている保険のプランを保険会社のウェブサイトで確認した。日本ではたぶん起こりえない、思わぬトラップだった。日本では保険が使えるかどうかってことを気にしないからこんなサービスもいらないのかもしれないが。


ステップ2. 病院を探そう!
◇Zocdocをもう一度試してみる
さあ、今度こそZocdocの出番だ!Primary Care Doctor、郵便番号、調べた保険のプランでもう一度検索!

こんなかんじで、保険ネットワーク内のお医者さんが口コミと一緒にいっぱいでてくる。

それはもう…いっぱい…10ページって何人出てくるんですか!!!

人は選択肢が多くなりすぎると決められないと言う(『選択の科学』より。以前の書いたもの)。まさにそういう状態になりそうなわたし…口コミで選ぶか…うーん、うだうだ。

◇日本大使館のウェブサイトを見てみる
そういえば、「困ったときは大使館」と誰かが言っていたことを思い出した。大使館だったら日本クオリティーの情報を提供してくれているのでは、と思いぐぐってみた。

ワシントンDC医療情報(在米日本大使館)

うおおお、ありがたやありがたや。
歯医者さんばっかりだけど、内科のお医者さんも掲載されている。しかも日本語が使えるところなんて!
しかし…ここで欲が出た。みんな遠い。なんでバージニアなのーーー。未だに車の免許を持っていないわたしは、不安定かつ酔う公共交通機関を乗り継いで、2時間かけて病院へ行かなければいけないのだろうか…
もうこうなったら日本語じゃなくてもいいので、歩いていけるお医者さんはないのか。選択肢の多さはわたしを贅沢にした。

◇知り合い・同僚に聞く
なぜ最初からそうしなかったのか…という声が聞こえてくる。なんででしょう…
聞いてみたところ、長く住んでいる人でも意外と「ずーっと診てもらっている」というお医者さんがいなかったりする。というのも、仕事や勤めているところの方針変更で、保険のプランもしょっちゅう変わるので、そのたびにその保険を扱ってくれるお医者さんを探さなきゃいけないとか…
この話を聞いてやっぱり医療にがっつり民間が入ってくるのってどうなの!と心が折れそうになったが、ある人から最近かかったお医者さんがよかったという話を聞いたので、その人のところに行くことにした。結局、バージニアに行くことにした

ちなみに保険のプランを確認してからお医者さんを決めるまで2ヶ月かかった。この優柔不断さ。重病だったら着々と病魔が身体をむしばんでいたことだろう。この辺、ふだん健康な人ほど危ないというのがわかる。


ステップ3. 病院へ行く
◇予約をとる
こちらの病院は予約をとるのが一般的である。病院を決めたのでさっそく電話。さすがアメリカ、最初は自動音声で、予約をとるというメニューを選んでから延々待たされる。ノイズ混じりの明るい音楽と、ときどき入る「おっ、つながった!?」と思わせる音の途切れと病院のウェブサイトを案内する声の繰り返しが10分くらい続いたあと、やっと受付の人が出た。
予約のときには、こんなことを聞かれた。

・診てもらいたい先生
・名前
・生年月日
・保険会社(プランまでは聞かれなかった…がせっかく調べたので言った)
・病院へ行く目的、症状

予約ができる時間帯はいちばん早くても1週間後だと言われた。うーん、東京の歯医者さんみたい。風邪引いたからお医者さんに行こう、とかしたら予約を待っているうちに治っちゃいそうだ。

◇問診票を書く
予約の電話で、「初診の人はいろいろ書かなきゃいけない書類があるから20分から25分早く来てください」と言われたのだが、同時に、「ウェブサイトにも書類のフォーマットが載せてあるから、それを書いてきてくれれば当日楽です」とも言われた。
医療用語わからないし、先に書いておくべきだろう。さっそく病院のウェブサイトへアクセス。

注意:一部です

………
左側のアレルギーとか手術歴はともかく、右側。初めて見る単語のオンパレードである。しかたないので辞書を引くのだが、日本語でも知らないものばかり。
リストの最後まで調べたのだが、チェックの数ゼロ。つまり重病ばかりだったのだ…途中で気づくべきだったと言えよう。
この他にも、病院に情報を登録するための書類や、情報公開についての書類がいっぱいあった。PCでかたかた打ち込めるのは嬉しい。途中まで気づかなかったんですけどね…

◇やっと病院へ行く
結局公共交通機関ではとても無理な場所にある病院にしてしまったわたし。夫に運転してもらって病院行くとか、なんだかものすごく重病人のようである。
病院の受付で書いてきた書類と保険のカードを渡す。フォトIDも求められたけど持ってない、と答えたら、次回でいいですよ、と言ってくれた。初診料として20ドルほどとられたが、クレジットカードで払った。
どうやら、看護師さんが待合室で患者の名前を呼ぶシステムになっているらしい。10分ほど待ちぼうけ。なかなか呼ばれないなーと思っていたら、夫に「呼ばれてるよ!」と言われた。ああ…保険の名前、新姓でした…
左右に部屋が並ぶ廊下を歩きながら、名前を呼んでくれた看護師さんに「気づかなくてごめんなさい、新姓だったから」と言ったところ、「あら、結婚して何年なんですか?」と聞かれた。す、すみません。もう4年目です…

看護師さんに連れられて行ったのは個室。机とベッドがあるけど、その他には大したものも置いていない。椅子も1脚しかなくて、看護師さんがそこに座り、わたしはベッドの上に座らされた。日本のお医者さんは、おそらく製薬会社からのノベルティと思われるものが部屋にあふれているので、なんだかちょっと新鮮だ。
看護師さんに初めてだからと身長・体重を測られ、名前や生年月日を確認して、来院の理由やアレルギーの有無を聞かれる。わたしが話した内容を看護師さんは手にしていたノートPCでぱちぱち打ち込んでいく。ひと通り質問が終わったあと、看護師さんがドクターを呼んでくるからと退室した。

しばらくして、ノートPCを片手に持ったお医者さんが部屋に入ってきた。噂通り、めちゃくちゃてきぱきしていて、感じのいいお医者さんである。看護師さんが入れたデータをPCで見ながら、わたしに細かい質問をしていく。傷みが出るのはいつだとか、どのくらい続くのか、生理や便通に問題はないかとか。何も自覚するような問題はない、と答えたら、「とりあえずすぐできる尿検査をして、今後精密検査をしましょう」という話になった。尿検査の容器とともに、小さいパッケージに入ったぺらぺらのおしぼりみたいなものを渡された。「これで拭いてください」って、手なのだろうか、それとも…

すぐに出た尿検査の結果は問題ありませんでした、という話とともに、お医者さんに1枚の紙を渡された。いわく、精密検査の設備はこの病院にはないから、この紙を持って別のところに行かなければいけないという。
さらに、わたしはちょっと驚いたのだが、その結果はお医者さんのところに直接送られて、お医者さんが診断をして、電話で結果を知らせるということだった。電話でって!わたしが日本でかかったお医者さんは、その日に薬を出してこれで治らなかったらまたきてねーというやり方だったので、そんなやり方もあるんだなあと目から鱗が落ちた。
結局、待ち時間も含めて20分以内で終わっただろうか。帰りながら気づいた。あんなにがんばって書いた問診票を使っていない…


ステップ4. 検査施設へ行く
◇予約する
今度は探さなくていいから楽勝、と思っていたのだが、よく見るとその検査施設もいろいろなところにあるようだ。仕事前に行けるように、ビジネス街にある施設を予約することにした。電話が人に替わるまで1分くらいだったので、この前の病院と比べたらスムーズである。
どういう検査を受けたい、とお医者さんに言われたまま伝えたところ、受付の人がその検査の場合に気をつける内容を教えてくれた。
「骨盤まわりの超音波なので、膀胱を空にしないでください」
「えっ?膀胱を空にしないってどういうことですか?」
「2時間前からトイレに行かないでください」
そ、そんな検査あるのー!?(今なら言える、あります)
ちなみに膀胱はbladderという。もちろん以前は知らなかったのだが、先日の問診票で調べていたのでわかったのである。使われなくて持ち帰ったあの問診票(にかけた時間と労力)が、浮かばれた瞬間であった…
検査の予約がとれたのも、結局そこから1週間後だった。最初に病院行こうと思ってから、はや2ヶ月半以上経っている。

◇検査施設へ行く
検査施設はオフィスビルの1フロアに入っていた。保険のカードを見せて、簡単な問診票的なものを書く。お金払わなくていいの?と聞いたら、保険に入ってるなら保険会社に請求するから、と返された。保険すごい。
しばらく待って名前を呼ばれた。今度は新姓にもばっちり反応。若い技師さんと思われる女性に、ビニール袋に入ったガウンを渡された。
「下着も含んで全部脱いで、これを着て待っててください。あ、靴は履いてていいです」
…靴。その日は雪が降っていたのでわたし長靴なのだが。ほぼ裸に長靴って…同じことに技師さんも気づいたようで、一瞬彼女の顔に気まずそうな色が浮かんだ。スリッパとかないのか、と思ったのだが、あるわけない。

ビニール袋に入ったガウン。カーテンで仕切られた空間なのをいいことに写真を撮った。開ける。

わかりますか?このしわくちゃ具合。さすがアメリカクオリティー。

◇いざ、検査
しわくちゃのガウンに身を包まれ、検査室へ向かった。巨大なキッチンペーパーみたいな使い捨てシーツが敷かれたベッドと、超音波の検査機器と、天井からぶらさがったモニターが1台。なんで天井に?と思ったのだが、ベッドに寝てみてわかった。リアルタイムで自分の内部の映像が見えるのである。
技師さんはてきぱきと検査を進めていく。…のだが、うぎゃーーー!!2時間お手洗いに行くのを我慢したあとに、膀胱近辺を圧迫されるのがこんなにきついとは!!これ新しい拷問なんじゃないのーーーー!
永遠にも感じられるような苦行が終わったあと、「婦人科検査の前にまずはお手洗いに行ってきてください」と言われたときには、技師さんの目にわたしの膀胱はどう映っていたのだろう…と思った。
お手洗いから戻ってちょっとすると、技師さんとともにお医者さんが入ってきた。婦人科のエコー検査もして、お医者さんがうーん、とちょっと思案顔。な、何かあったんですか!
「あなた、なんで検査を受けてるんですか?」
「いや、たまにわき腹あたりが痛くて…」
「今日の検査の結果、なんにもないです。大丈夫」
………
ほっとするとともに、なんだか健康な人間がみなさんをお騒がせして申し訳ない気分になったのであった。


ステップ5. 診断結果をもらう
その日の夕方、最初に行った病院のお医者さんから、電話がかかってきた。
「検査の結果、何も問題はありませんでした。しばらく様子を見て、1ヶ月か2ヶ月経っても気になるようならさらに検査をしましょう。あ、それと、便通をよくしてください」
………
………
うたがわしきは無自覚な便秘かい!!

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ということで、長くなったが、これがわたしの病院チャレンジの記録である。
本当は日本とアメリカの比較も書こうと思っていたのだが、ちょっと長くなりすぎたので、次回以降に回したいと思う。それまでに便秘解消のいい方法がありましたら、教えてください。本人は便秘だと思ってないんだけどなあ…

2015-02-20

同僚がすばらしくて自慢せざるを得ない

アメリカに引っ越して3回目の冬である。
…寒い。ニューヨークからちょっと南に引っ越したのに、相変わらず寒い。マイナス15度とかざらなんですが!さらさらした雪は雪合戦には向かない。

寒さにはへこたれそうだが、仕事に行きたくないなーと思うことはない。揺れまくって8割の確率で酔う地下鉄には辟易するが、オフィスに着いたときには「今日も仕事するぞー!」という気持ちで、心が踊る。長い社会人生活でこんなことはあまりなかったので、その理由を考えてみたのだが、ひとえに上司や同僚がみんなすばらしく、働きやすいからなのだった。あまりにすばらしいので、今日はそのすばらしさを言葉にしてみよう。

◆◆◆◆ 突然開催!同僚自慢のコーナー ◆◆◆◆

(1)みんなプロフェッショナル
わたしの上司や同僚は、みんなある分野の専門家だ。
日々の研鑽を怠らず、必要とされるものをきちんとした質を保ちながらアウトプットしていく姿は、これまで付け焼き刃でその場しのぎ的なことばかりしてきたわたしには非常に勉強になる。
日々の研鑽というのは本当に細かいことの積み重ねで、例えば日々最新情報を集めて理解し、そこから将来の動きを予測するという行動である。「アンテナを高くしてうんぬん」とか、口では簡単に言えるけど、毎日出てくる新しいものを自分の知識とつきあわせてじっくり考えるのはなかなかできないことだ。本番へのウォーミングアップを毎日欠かさないと言えば伝わりやすいだろうか。

(2)お互いを尊重し、率直な議論ができる
「この分野はあの人の専門」というものがあると、組織の上司と部下という関係を超えて、もちつもたれつ専門分野で助け合いながら、お互いを尊重しあうようになる。自分の存在を誇示するために、上司ぶるとか、こびを売るとか、そういう間違った方向の努力をしなくてもいい。
お互いを尊重しているということがわかっているので、率直な議論ができるというのが本当に助かる。上司の顔色をうかがって、びくびく何を言うか思い悩むのとは、生産性がぜんぜん違う。わたしの上司はいつでも、「自分はこう考えてるんだけど、どう思う?」と意見を引き出そうとしてくれるし、わたしの意見が自分の考えと違うときこそ、意味があると言って感謝してくれる。わたしの英語での下手な説明をじっくり聞いてくれる点も含め、非常にできた人である…

(3)仕事が早くて、早く帰れるから元気
普段から入念なウォーミングアップ…というか準備をしているので、仕事を片付けるのがめちゃくちゃ早い。さらに率直に議論ができるので、無駄な資料を作ったり、説明をしたり、という時間が大幅に削減できていると思う。
仕事が早いので、おうちにも早く帰れるからか、みんな基本的に元気である。元気だから次の日も朝からばっちり働けるし、仕事が早く終わらせられる。お休みもきちんと取れる。これを好循環と呼ばず、なんと呼ぶのだ!ってかんじ。

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ああ、なんてすばらしい環境なんだ!書いてみて、改めてうっとり。

まったく正反対の、
(1)みんながやっつけ仕事
(2)上司が高圧的で意思疎通ができない
(3)みんな長時間働いてる、夜中でもお休みでも仕事は当たり前
というような職場で働いていた経験があるので…うっうっ。本当に、今の環境が天国のようだ。

ただ、わたしの職場のような場所は、いろいろな条件が揃わないと実現できないような気もする。ぜんぜんひねりがないけど、ひとことで言えば「人を一番大事にする」という点じゃないかなあ、とだいぶ前の友人のブログを読んで思ったのであった。

知識労働時代の資本(カネ)の使い方(Casual Startup - MBA/プログラマの起業日記)
さて、知識集約産業では、従業員の持つ知識・知恵がもっとも重要なので、資本は知識を持った従業員を定着させ、より効率的に知恵を出してもらうために使うべきです。
今現在こういう職場にいるわたしは、この主張に本当に心から同意する。