2019-10-26

「ふつう」じゃなくても幸せだ。 『いるいないみらい』を読んで


Photo by Brendan Church on Unsplash

「ふつう」−−わたしにとって、会話の中で出てくると、一気にもやっとする単語だ。「常識とは、18歳までに身に付けた偏見のコレクション」とアインシュタインも言っているし、しょせん「ふつう」とはこれまでの自分の経験や考え方から導き出されたもので、他人にとって「ふつう」であるかは断言できない。

なんてえらそうに言っているが、『いるいないみらい』を読んだあと、わたしの脳裏に浮かんだのは、この短編集には「ふつう」じゃない家族ばかり出てきたなあ、という感想だった。


夫の収入が自分より少なく、子どもがほしいかわからない女性。将来の子どもを想定して郊外の3LDKのマンションを買ったけど、男性不妊ということがわかった男性。養子として高齢の夫婦に引き取られた経緯を持ち、子どもが大嫌いな女性。幼い子どもを亡くし、妻とも離婚してタワマンにひとりで暮らす、もうすぐ定年の男性。18歳まで乳児院で育ち、子どもを育てる自信がない女性。

どの人物も、「ふつう」ではないことに違和感や葛藤を抱いている。わたしも含め、「ふつう」じゃない状態を経験したことがある人なら、わかる!と言いたくなるような描写がたくさんあった。

マンションを買うとき、いずれは子どもができるのでしょうから、と薦められるままに3LDKを選んだ。(略) 夫婦に子どもが二人。あらかじめそういう家族像をモデルに設計されているのだ。今、子どもができるかできないかの瀬戸際にいる僕には、それが正しい家族像だと強制されているような気がして息苦しかった。

マーケティングでも、社会保障の制度でも、効率が大事なので「ふつう」の型を設定する。その「ふつう」から外れているとき、多くの人はプレッシャーを感じたり、疎外感を覚えたりする。

しかし、本作の主人公たちはもやもやしているだけではない。「ふつう」ではないけれど、過去のつらい経験に自分なりの落とし所を見つけたり、大切なパートナーを得た幸せを噛み締めたりしている。葛藤の先にありたい将来を見出そうとするところに心が打たれる。

「血のつながりって、そんなに大事なものかな?(略) 僕と繭子は血はつながっていないけれど家族だろう。家族だと僕は思っているよ。僕の両親も繭子のことを家族だと思っている。血のつながりなんて、そんなに大きなものだろうか」

養子を迎えたい夫が妻にかけた言葉である。これ、養子を考えたことがある人なら、絶対1度は通る道、というか、考えることでは…。

日本のあちこちで「多様性は大事だ」と言われて結構な時間が経った。その割には夫婦別姓は選択させてもらえないし(恨み節)、同性婚もできないし、しまじろうにはエプロンをつけて家事をするお母さんに、新聞を読んでふんぞり返っているお父さんがいる。どうも、少子高齢社会では、家族のかたちの多様性は認められていない雰囲気がある。

とはいえ、少なくとも社会のプレッシャーは無視でいいと再確認した。あなたの人生だからあなたが幸せを定義していいんだよ—そんなメッセージを感じる、「ふつう」じゃない人や家族を勇気づける小説だった。人はイエのために生まれるわけではなく、国のために働くわけでもないしねえ。

2019-10-05

養子ワーママあるある (1)突然の職場離脱

「あるある」とは多くの人が経験することである。日本だと、そもそも養子を託されるということ自体や、養子を託された後にフルタイムで働き続ける母親が少ない(※筆者調べ)ことを考えると「あるあるなのか?」というつっこみが想定される。また、子どもが養子だろうと実子だろうと、対子どもについてはワーママの日常生活に大きな違いはない。

しかし、厚労省は特別養子縁組を増やそうとしているし、最近興味を持つ人も多いらしい。養親希望の人から質問をもらうことも多いので、誰かのお役に立つかもと思いながら書いていくことにした。

語呂の問題で「養子ワーママ」と書いているが、適宜「サラリーマン養親」と読み替えていただけると嬉しい。また、わたしの経験を元にしているので、新生児を委託された場合であることをご了承いただきたい。

養子ワーママあるある その(1)「子どもが来るので、来週から数ヶ月休ませてください」


養子ワーママは、ある日突然職場からいなくなる。これは実子ワーママとの大きな差である。実子ワーママは時期に差はあるにせよ妊娠を職場に伝え、出産予定日に合わせて計画的に産休を取る。産むから当たり前である。

しかし、養子ワーママの場合は違う。基本的に養子は突然やってくる。養親候補者には、子どもが生まれ、実母さんへ最終的な意志の確認をするまでは連絡がないからだ。そして、連絡が来たら、養親側に断る権利はない。

わたしの場合、職場で打合せ中に支援団体の人から電話がかかってきた。平日昼間に珍しいなと思いつつ、折返し電話をしたら、

「ことらくんが生まれました。来週委託させてもらっていいですか?」

と言われてびっくりである。夫に電話をして席に戻り、即、上司と同僚をミーティングルームに呼び、「これこれこういうわけで、来週からしばらく休みます!」と伝えたところ、驚きながらも「おめでとう! 引き継ぎがんばろう!!」と話がまとまった。

夏休みなども考慮して作っていた引継書をアップデートして、やりかけの仕事はチームに全部割り振った。嫌な顔をしないどころか、お下がりやお祝いをたくさんくれて育休に送り出してくれた皆さんには本当に感謝しかない。

ちなみに周りの養親さんの話を聞くと、待機するタイミングできちんと職場の人に伝えているそう。いやーー待機って気づいてなかったんだよねーーーあははーーー…

Photo by Dakota Corbin on Unsplash