ホストが捨て子を拾って、世間に非難されながらもクラウドファンディングで子育てする——そんな内容の小説である。意味がわからない。読むしかない。…はい、読みました。
キッズファイヤー・ドットコム
ホスト描写の細やかさ、漫画的な演出、癖のあるキャラ、出だしから疾走感たっぷりである。これまたギャグかと思っちゃうくらい、主人公の神威の前に突然赤ちゃんが登場。軽妙かつ、生々しいタッチで赤ちゃんのケアをする神威の姿が描かれる。さすが作者が育児をされていただけある。
この作品を読んでおもしろかったのは、女性の影がほとんど出てこないことだ。産みの母も、ホストクラブの客も、赤ちゃんの面倒を見ようとしない。この点、同じように自分と地のつながらない子どもを育てながらも、ほぼ女しか出てこない『八日目の蝉』とは真逆のアプローチだ。クラウドファンディングで高額の入札をした人物は女性だが、理由もいわゆる「母性」からはかけ離れている。
『私、能力も教養もないのに、子供がいるっていうだけで根拠のない自身を持ってる女が大嫌いなの。そういう女たちへの復習かしら(略)
女の幸せが子供を生むことだなんて旧弊な価値観にはほんとうにうんざりよ。でもね、その価値観を完全に否定できない自分がいるのも事実なのよ』
後半部分がわたしの心に刺さった。わたしも押し付けられた女の幸せはまっぴらごめんだし、実際に母親稼業向いてないなあと思う瞬間がたくさんあるのだが、それは古い価値観からどうしても抜け出せない自分のせいなのかもしれない。
ちなみに本作は前半は2015年、後半は2021年の設定だ。2021年パートを読み終わる頃にはぼろぼろ泣いていた…。後半はディストピア感も漂っていてたまらない。「社会で子育て」ってよく聞くけど、どういうことなんだろうなあ、とぼんやり考えてしまう読後だった。とりあえずもっと予算はつけていいと思うが。
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