特別養子縁組を題材にした小説『朝が来る』を読んだ。最近、養子を迎えたところ(試用期間中)なので胸に迫るものがあり、文章にしてみることにした。(noteに書いた文章の再掲です)
ひとことで言うと「つらい」
解説には、「このラストシーンはとてつもなく強いリアリティがある。」と書かれている。しかし、この解説にはあまり同意できない。いい意味でドラマ感満載のラストシーンより、そこに至るまでのふたりの主人公、養親の佐都子と実親のひかりの境遇があまりにもリアリティに溢れていて、それがつらかった。
仕事から不妊治療、養子を検討するまで
たぶん、わたしの友達や30代中盤から後半の人がこの本を読んだら、佐都子に感情移入する人が多いかもしれない。仕事は楽しい、夫とふたりの生活もエンジョイしている。結婚◯年、気づいたら子どもがいない。これでいいのかと考えて、子どもがほしいと思い、不妊治療を始める。最初、夫は協力的でない。悩んだ挙句、高度な治療を始めて、結果に一喜一憂する。実家が心配と称して干渉してくる…
あー、書いててつらい。リアルすぎる。特別養子縁組に至るまでの佐都子夫婦の境遇は40代の足音が聞こえてくるわたしの周りで起きていることそのものだ。
特別養子縁組に至るまでの部分は経験した人は少ないかもしれないが、こちらもやっぱりリアリティに溢れている。特に、支援団体の説明会が迫真の描写と言える。会場の重苦しい空気、40代以降が中心の参加者、みんな不妊治療で追い込まれている、養子は「普通の家庭」からはやってこないという説明。ちなみに本作では割愛されていたが、現実では説明会の後でこれまた厳しい(団体による)審査があって、期待値が低い不妊治療ギャンブルとはまた違う、人にジャッジされるつらさもあったりする。
妊娠で追い詰められる若い女子
一方、中学生で妊娠して、子どもを産むことになるひかりの人生は、なかなか想像しづらいかもしれない。しかし、14歳以下の妊娠は30年前に比べたら増えているし(2015年で年間42件)、中絶数も変化していないそうだ。
本人の意思も確認せず、娘の妊娠を受け止められない母親が段取りをして、妊娠の事実がばれないように遠方の支援団体へ行かされる。出産した子どもを佐都子夫妻に託し、元の生活に戻ろうとするが、子どもの父親である彼氏はなかったことにしているし、高校受験にも失敗。家族との関係は悪化の一方で、高校在学中に家出してしまう。信頼できる人が誰もいない場所で、未成年のひかりはどんどん追い詰められていく。実子を託した佐都子が武蔵小杉のタワーマンションで幸せな日々を送っているのとは対照的で、若年妊娠の問題点を突きつけてくる。
フィクションだと知っておいてもらいたいこと
リアルだと言い続けたこの作品だが、すべての特別養子縁組がこうではないというところはつけ加えておきたい。特別養子縁組の支援団体は厚労省に届け出たところだけでも29あり、それぞれ方針が違う。
・ひかりが出産後、赤ちゃんを1回しか抱っこできなかった
・ひかりが佐都子の住所を知らされていなかった
・養親登録をしてからは避妊する、不妊治療をやめる必要がある
・養親登録にあたって、養親側の事情を考慮する(作中では、「個々の事情への対応を検討」と団体の人が言っている)
あたりは本当に団体によって異なるので、書き添えておく。
つらいフィクションは現実の鏡
作者は「報道やノンフィクションでないからこその、小説だから描けることというのもあると思うんです」と話しているが、本作はほとんど現実だ。だから読んでいてつらい。今日も日本のどこかで、子どもができないことで親族から責められる人、不妊治療の経過に一喜一憂する人、予期しない妊娠をしてしまった人とその家族がいる。彼らと子どもが幸せになれるように、後悔のない選択ができることを祈るばかりだ。